メールマガジン No61~70
★第61回 味噌の発酵過程における菌叢の変化 ★
日増しに秋も深まり、朝夕は肌寒く感じる頃になりました。
今年の夏は突然の豪雨や雷雨も昨年程多くなく、急な天候の変化に悩まされる
事も少なかった様に思います。
「インフルエンザ」の情報を聞く機会も増えてきました。免疫力を高めつつ
様々な感染症予防に努めたいと思います。
今回は、『味噌の発酵過程における菌叢の変化』をお届け致します。
菌叢とは、特定の環境に生育する一群の細菌の集合のことです。
その一つの例として、挙げれば、腸内フローラと呼ばれる人の腸の中の細菌に
良い細菌が多いのか少ないのかと言う話を耳にしたことがあると思います。
フローラとは、お花畑の意味で、いろんな種類の細菌が、色とりどりに咲いて
いるイメージから来たものだそうです。
そこからもわかるように、環境によって徐々にもしくは劇的に細菌の種類は、
変化します。特に味噌の場合は、以下の通りの劇的な変化となります。
まず、原料の仕込みの段階では、大豆は、完全に殺菌されてその後、浮遊菌
(乳酸菌、酵母、その他)が付着した状態。麹は、麹菌が10の8乗程度繁殖中。
塩は、当然無菌状態。
次の段階としては、塩が大豆や麹の水分によって、塩水となる過程に加えて、
麹菌の酵素の分解作用により水が生成されて、水分が増していく。
麹菌は、塩分に弱いために完全に死滅する。
また、仕込み当初は、パサパサしていた味噌も、水分が増していくことにより、
味噌全体が塩水に漬かっている状態になっています。
その塩水も味噌として出来上がりの塩分で12%、水分46%で考えても、ほぼ飽和
食塩量の約26%に近い塩分だと考えられます。
そのため、その塩水の殺菌効果は、相当な効果となります。
(おにぎりを握る時に塩を付けて握るのは、味付けと殺菌効果をだすためです。)
もの凄い蛇足ですが、スパゲッティを茹でるときに、塩を入れます。
その理由を一部の人は、沸騰点を挙げるためと言っていますが、3%程度の
塩分では、ほとんど上がりません。
沸騰点が上がる塩分量は、高校の化学の先生に聞いてください。
なぜ、塩分の高い水溶液は、殺菌効果が高いかと言うと、脱水効果があるからです。
微生物の体は、膜で覆われています。
その膜が、薄い水溶液に対して濃くする働きをします。
濃い塩水に微生物を入れておくと、微生物を覆っている膜を通して、微生物の
体内に塩の分子が侵入して来ます。
その代わりに体内からは、水の分子が出て行きます。
それによって、微生物の体内の塩分が濃くなって、死滅することになります。
この作用を「浸透圧」と呼びます。
しかし、高い塩分の中でも、数少ない種類の細菌は、生き延びることができます。
その中で味噌に関係がある微生物は、乳酸菌と酵母です。
この2種類の微生物は、あえて添加をすることもありますが、発酵の過程で
周辺から味噌に取り込まれて、発酵に大切な役割を果たします。
もし、味噌を無菌状態(存在する微生物は麹の麹菌だけで、それ以外は無菌の場合)で
仕込んで、無菌状態で発酵熟成をさせた場合は、麹菌の酵素だけが作用するので、
味噌の形状の半固形状にはなると思いますし、酸味や旨味の薄い味噌になると
思います。
あえて言えば、発酵はしているけれど熟成はしていないような味の味噌になると
思います。しかし、現在の環境では、あえて添加をしなくても、建物の中に菌叢が
できていて、そこから乳酸菌や酵母が供給されます。建物の中にある菌叢が別の
言い方をすれば、「蔵癖」(味噌蔵ごとで微妙に違う細菌が複雑に共生していること)を
具体化したものです。
ビールは、すべて殺菌してから密閉された配管の中で、所定の酵母を増殖させて
作るので、無菌状態から選び抜かれた細菌を増殖させているので、風味のコント
ロールは、安定すると思いますが、なかなか、そうは簡単ではないそうです。
★第62回 味噌の発酵過程における菌叢の変化 その2 ★
街路樹の落ち葉が歩道や車道に舞い散る季節となりました。朝夕の冷え込みが
厳しくなって参りますので、体調管理をし充実した日々を過ごしたいと思い
ます。
今回は、『味噌の発酵過程における菌叢の変化 その2』をお届け致します。
〈 前号より続く 〉
話を元に戻すと、まず、乳酸菌ですが、これは乳酸という物質を作る細菌の
総称です。味噌の乳酸菌は、以前は、ペディオコッカス属ハロフィルスと
習いましたが、1993年にテトラジェノコッカス ハロフィルスとなりました。
味噌中の乳酸菌は、己の作った乳酸で味噌のpHが下がり(酸度が上がり)、
そのために死滅すると教えられてきました。
しかし、低いpH でも、生存する乳酸菌もあり、全部が全部死滅する訳では
ないようです。
続いて、酵母菌ですが、味噌の酵母菌は、ご存知のように、塩分が高くて
pHが低いという、おおよそ普通の細菌では全く好まない環境で生育する変わ
り者の細菌です。
味噌の酵母は幾つかの種類がありますが、チゴサッカロミセス・ルキシーが
メインの細菌です。
他にも、後熟酵母キャンディダ・バーサチリスやキャンディダ・エチェルシー
があるが、これらは、脇役です。
酵母は、最多で1グラム当たり10の8乗くらいまで、増殖します。
10の8乗と言えば、1億個です。普通、食物が腐敗している場合は、10の
6乗以上の細菌数があると言われています。
それを10の8乗ということで、100倍の細菌数があるので、完全に腐敗している
と言われても、間違いではありません。
しかし、味噌は、この過程を経ないとおいしくはなりません。味噌の発酵は、
酵母が主に味や香りを決めることになりますが、酵素分解や乳酸菌発酵と
同時進行で、進んで行きます。
その間、麹菌の酵素により、米のデンプンや大豆のタンパク質が分解される
ことと並行して、菌叢は、乳酸菌が増殖して自らの作った酸により減少し、
酵母が増殖して酸欠により減少し、変化していくことになります。
酵母は、酸素がない状態では、エネルギーを得るためにアルコール発酵を
します。
アルコール発酵をしても、現状維持がやっとで生体数は減少します。日本酒の
酒蔵の映像で、カイで仕込桶をかき回してしる様子を目にしたことがあると
思いますが、その目的は、混合と酸素の供給です。
このように、味噌の発酵にかかわる主な三つの微生物の増減だけを見ても、
栄枯盛衰があり、その作用によって、味噌の風味が形作られていることが
分かると思います。
さらに、その他の副次的な役割を果たす微生物の風味に対する影響もあり、
より複雑な味を醸し出しています。
以上のような醸造過程を経ているために、味噌は、食中毒の原因となる様々な
病原菌に対して、殺菌力を有しているのだと、思います。
たとえば、病原性大腸菌O157は、味噌に接種しても、30℃で3日以内に死滅する
との学術論文が、発表されています。
また、全国の保健所の歴史からも、味噌による食中毒の記録は、ないようです。
★第63回 江戸甘味噌の本をつくりましょう ★
今年も余日少なくなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
年の瀬も押し迫り、新年を迎える準備に追われている頃ではないでしょうか。
御多忙の折ではございますが、お体に気を付けて良き新年をお迎えください。
今回は、『江戸甘味噌の本をつくりましょう』をお届けします。
江戸甘味噌は、弊社の主力商品の一つで、創業以来作り続けている味噌です。
江戸甘味噌の商標は、東京都味噌工業協同組合(以下、東京組合)が、地域団体登録
商標として保持しており、その使用に関しては、許可が必要となっております。
弊社は、東京組合の発足以来の加盟員ですので、商標の使用は、許されています。
さらに江戸甘味噌は、東京都地域特産品認証食品として、東京都の認証を得て
います。
このように江戸甘味噌は、弊社にとってだけでなく、東京組合にとっても、
ある意味、存在意義を背負った味噌でもあります。
しかし、その歴史や変遷については、加盟各社がなんとなく漠然とした歴史認識や
エピソードがあるだけで、根拠のある歴史資料や、文献が整理共有されていない
ということが、ありました。
東京組合のHPには、江戸甘味噌がメインの題材として取り上げられてはおりますが、
その歴史関連としての内容は、限られた幾つかのエピソードに過ぎません。
江戸甘味噌を東京の地域の味噌として、今で言うところの「レコメンド」だったり
「推し」にして来た弊社を始めとする東京組合の組合員としては、「名称として、
江戸甘味噌と名乗っているのだから、歴史的には江戸時代から存在した味噌である
ことは、間違いない。」としか言いようがないほどの歴史的なデータが少ないことに、
頭を痛めており、東京組合としても、大きなペンディング事項でした。
新聞やテレビといったメディアも、江戸甘味噌に興味を持っていただき、平成25年
には、テレビ朝日系の長寿番組「食彩の王国」で江戸甘味噌の巻として、全国放送
されました。
その内容は、戦前は、東京の味噌の需要の6割を占めていたこと。
太平洋戦争中に贅沢品として、製造が禁止されたこと。
昭和26年に統制が解除になって、復活したこと。
この3点でした。
残りの内容は、弊社の江戸甘味噌の製造風景も映りましたが、江戸甘味噌の特徴を
生かした味噌料理を料理研究家が江戸時代の再現し、フレンチのシェフが新メニューを
開発した。という、ほぼ料理番組でした。
このような形でメディアに紹介してもらうことは、江戸甘味噌の認知度を上げると
ともに、ブランド力の向上につながることは、間違いありません。
しかし、料理素材としては、魅力があったとしても、歴史ある味噌と謳っていながら、
歴史的なデータやエピソードが少ないというのは、話題として、取り上げてもらえない
ことになります。
大きなことを言えば、メディア戦略に大きな欠陥が生じていることになります。
もう一つ、歴史的な資料を入手することに対して、差し迫った問題がありました。
それは、昭和の最後の頃に東京組合の加盟メーカーが、製造部門を縮小するという
ことがありました。
その当時は、各社で江戸甘味噌を醸造していました。
その当時の工場長などの味噌の製造を取り仕切っていた人たちが、相当の年齢になり、
その会社の先輩から聞いた江戸甘味噌の関連情報や、製造上の知識がその人ともに
失われることとなりそうだったためです。
今で言うところのオーラルヒストリーを作成しておかないと、ますます江戸甘味噌の
歴史的な資料が失われてしまうという危機感を持っていました。
(幸いにして、味噌屋関係者は長生きとはいえ、インタビューをした皆さんは、80才を
超えていました。それ以下の人は、編集委員になってもらいました。)
最後に、これは、意外なことなのですが、味噌関連の書籍で、料理本は数多くありますが、
歴史関係の本は数が少なく、昭和33年発行「味噌沿革史」、昭和41年発行「醸界風土記」、
平成13年「みそ文化誌」の3冊しかないことです。
ここに並ぶような江戸甘味噌の本ができれば、関係者としては、後世に対し、ささやか
なりとも資料を残せたことになるのではないかと、思いました。
今回は、江戸甘味噌の本をなぜ作らなければ、ならなかったかという理由と言うか、
言い訳を書いただけになりましたが、江戸甘味噌の本を作る過程で、色々な新情報を
得ることができましたので、その話は、次回以降、申し上げます。
★第64回 江戸甘味噌の本を作りましょう。その2 ★
皆様、新年あけましておめでとうございます。
昨年は、ご愛読いただきましてありがとうございました。
今年も素晴らしい1年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。
その後、東京組合の関連団体の一般社団法人東京味噌会館の公益事業として、
江戸甘味噌の本を制作することになり、伝手を頼って、プロのライターを
お願いして、取材を進めてもらいました。
最初に行ったのは、かつての工場長の方たちへの取材です。
最高齢は、93歳。一番若い人が、昭和6年生まれでした。
工場長OBへの取材を進めていく上で、印象的だったのは、関東大震災と太平洋
戦争で資料は、工場とともに焼けてしまったことです。
そこで、かつての工場長たちが、自分が体験した話や、先輩から聞いた話が、
貴重なオーラルヒストリーとなっています。
調べた中で、当たり前と言われれば、その通りですが、私として一番の驚きは
昭和の前期まで江戸甘味噌と言う名前の味噌は、無かったことです。
江戸甘味噌と同じ特徴を持った味噌は、ありましたが、その味噌の名称は、
江戸甘味噌では、なかったことです。
江戸とは、地域と時代の両方を表しています。時間軸で考えると、江戸時代の
人は、自分が江戸時代に生きていると思っていないはずです。
現代に生きていると思っています。もちろん元号も江戸などではなく元禄とか
寛永とかでしょうし、それも一世一元ではなかったから、2~3年するとそれ
こそ験を担いで元号が変わっていたので、江戸時代の人は、自分が江戸時代人
だとは思わずに、せいぜい徳川家の世の人間だと思っていたでしょう。
地理的に考えたらば、自分が江戸っ子と思っていたのは、当然だと考えて居ま
したが、それも、江戸っ子が江戸っ子を自称するのは18世紀の文化文政の時代
からのようです。
なにせ、日本人と言う意識を持った最初の人間が坂本龍馬だったとの話もある
くらいですから。もっと狭い範囲の生活圏での意識だったのでしょう。
たとえば、神田とか本所とかの範囲で、神田っ子とか、本所っ子ということで
しょう。
江戸時代の江戸に住んでいる人にとっては、味噌と言えば、今の江戸甘味噌を
ベースとした味噌のバリエーションか、仙台味噌、京都の白味噌と生産地の
名前がついた味噌しかなかったようです。
もちろん、現在圧倒的な生産量を誇る信州味噌は、地元で生産されてはいても
江戸の地では全く知られていなかったようです。
江戸時代に、江戸甘味噌は、なんて呼ばれていたかというと、確たる証拠では
ないのですが、状況証拠レベルとして言えるのは、極とか上赤とか言う名前の
味噌が、それに当たるのではないか、ということです。
なぜ、江戸・東京の人々の必需品でこれだけ普及していた江戸甘味噌の当時の
呼び名が、はっきりしないのでしょう。それは、文献が少ないからです。
なぜかというと、ここからは私の考えた説ですので、ご批判があれば、言って
ください。
「食に対する文献の量は、餓死への恐怖心と反比例している。」ということです。
江戸時代でも、ちょっとした飢饉が発生すると何万人もの餓死者が出たとされて
います。天保の飢饉は、1833年から1839年まで続いたとされています。
30年もしたら、明治維新です。
ウマイのマズイの、ローストだのグリルだのと言うのは、明日食べるものの心配を
しない人たちで、生き残るのに精一杯の人は、今日食べるものがあるかが、最大の
関心でしょう。
もちろん、食以外に、ファッションやアートの分野もそのような傾向にはあるとは
思いますが、どの時代も最高級品を求める階層は必ず存在しますし、その分野では
現物が大切に保存されていることも、多々あります。
しかし、食品が、そのまま残っていることは、あり得ません。
食関係の情報で、現代に残されているのは、紙に筆で書き残すか、木版で少量の
印刷物を作ったものしか、ありません。
情報を残すということが、どれだけ大変で大切なことかは、活版印刷の発明が、
世界三大発明の一つに数えられていることからでも、わかります。
江戸時代は、識字率が相当高かったようなので、食に関する色々なことを書き
残しているような変人が居れば、良かったのでしょうが、残念ながら、その奇人
たちも残してくれたのは、レシピ止まりでした。
そのレシピでは、かろうじて「極」だの「上赤」だの味噌の種類が書いてあるだけ
のようです。
そこから考えられることは、味噌は、完成品を買って使っていて、製造方法には
興味がなかったか、使っている味噌の製法を書くとその他の原材料や調味料全ての
製法を書かなくてはいけなくなるので、書かなかった。ということか、味噌の作り
方は、誰でも知っていることだから、あえて書かなかった。ということになります。
話が、横道に逸れたまま、次回に続きます。
次回は、江戸甘味噌の名前の話が出来ればと思います。
★第65回 江戸甘味噌の本を作りましょう。その3 ★
昨夜の皆既月食「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」は、観察されましたか。
寒さに凍えながらも、神秘的な色になる月を観察する事が出来ました。
日本全国で、今回の様に部分食の始めから終わりまでを観察できる皆既月食は
次回 2022年11月8日だそうです。次回もまた楽しみです。
今回は、『江戸甘味噌の本を作りましょう。その3』をお届けします。
前回は、現在、江戸甘味噌と呼ばれている味噌が、そう呼ばれるように
なったのは、昭和の前期からで、それ以前は、別の名前で呼ばれていたが、
何と呼ばれていたか、明確でない。と言う話から、なぜ食に関する文献が、
少ないかと言う珍説に移って、横道に逸れたまま終わり、失礼をしました。
江戸甘味噌の名前は、かつて北区の王子にあった株式会社中村味噌醸造所が
商標登録をしていました。
そちらが廃業して、商標権を東京都味噌組合が譲り受けた。とされています。
他のメーカーは、同じような甘味噌を醸造していても、江戸甘味噌と名乗れ
なかった。というか、それぞれのメーカーの商品名を名乗っていました。
日本味噌では、赤甘味噌と昭和五十年代まで、習慣として呼んでいました。
江戸甘味噌と言う名前の使用については、上記のことが東京の味噌業界では
共通の認識でした。
しかし、江戸甘味噌の本のライターさんが、新たな発見をしました。
「伊勢利 高木商店」に戦前、「江戸甘味噌」と書いてあるラベルがあった
ということです。
それを「伊勢利 高木商店」の子孫の方のブログを見つけました。
ブログの写真では、ラベルにはっきりと「江戸甘味噌」と書いてあります。
そのラベルは、現在文京区の文京ふるさと歴史館にあるそうです。
「伊勢利 高木商店」は、本郷にあった江戸時代から続く味噌、麹の製造
販売の大店でしたが、太平洋戦争の空襲で店が焼失して、残念ながら廃業
しました。
このことは、戦前(太平洋戦争中に贅沢品として製造禁止されていたので、
それ以前になる)も「江戸甘味噌」と名付けられた味噌が、存在したこと
になります。
ここまでわかると、どの時期から「江戸甘味噌」と名付けられたかが、
わかれば良いのですが、東京は、関東大震災と太平洋戦争中の空襲で
色々な物が、焼けてしまいました。
いつから、江戸甘味噌と言われていたかが、曖昧なのかの、もう一つの理由
として考えられるのは、味噌が量り売りをされていたことです。
今なら、袋やカップに詰めて、キチンとした表示が付けられています。
しかし味噌は、乾物屋や酒屋や、今は珍しくなりましたが味噌・醤油専門店で
量り売りをされていました。
しかも、その小売店へは、20貫(約75kg)樽で収められていました。
蛇足ですが、今でも味噌メーカーでは、その名残があって、天樽(テンタル)と
呼ばれる75リットルのポリ樽が、利用されています。
また、味噌には、一貫目=3.75kgと言うのが、相性が良いようで、1kgの大豆で
10歩麹の塩分12%の味噌を仕込むと、おおよそ1貫目の味噌ができることに
なります。
当時は、20貫入りの木樽でしたので、一括表示も何もあったものではなく、
各々の小売店が独自の名称を付けて売っていたようです。
お客さんは店頭に並べられた味噌を見て、場合によっては、ちょっと舐めて
みて、買っていたのでしょう。
今は、コンビニですら、他のチェーンとエリアが被らないように出店を
調整しておりますが、当時は、商店街で何軒も同じものを売る店があって
しのぎを削っていました。
そこで、同じメーカーの同じ味噌を売っていても、商品名や価格を変えて
隣とは差別化を図っていたようです。
その中で、赤い甘味噌を江戸甘味噌と名付けて売っていた小売店もあった
のではないか、と思います。
それを見た味噌メーカーの担当者が、良い名前だからとフィードバックして
江戸甘味噌と名付けたことも、可能性としてはあると思います。
その可能性は、あまり高くはないでしょうけれど。
ここ3回に渡って、江戸甘味噌の本に関わる妄想を色々と書き連ねて参り
ましたが、ライターさんを中心に現在私を含む編集委員たちも、本の発行に
向けて、努力を積み重ねております。
とりあえず、この話は、ここで中断させていただいて、次号からは、新しい
テーマにてお話をさせていただきます。
本については、なにかありましたら、またお話させていただきます。
★第66回 食の安全とは ★
昨夜から今朝にかけて関東では雨が降りました。
このあとは天気が回復して、気温も上がる予報です。そして、風は強い状態が
続くので、雨上がり・強風・気温上昇という、花粉が飛びやすい条件が揃って
しまいます。
花粉症の方は厳重な対策をしてお過ごしください。
今回は、『食の安全とは』をお届けします。
仕事柄、「食の安全」と言う言葉に敏感になっております。
ひと言で「食の安全」と言っても、様々な分野に分かれていると思います。
具体的には、腐敗、異物混入、アレルギー表示、犯罪行為、等が挙げられます。
他に食品添加物については、「食の安全」と絡めての話題となることが多いと
感じられます。
このような事を考えるようになって、調べていると以下の本を見つけました。
畝山智香子 著
ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクという幻想 ㈱化学同人
とても勉強になったので、合わせて、同じ著者の
「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える
㈱日本評論社
「健康食品」のことがよくわかる本 ㈱日本評論社 も読んでみました。
なお、上記の本の著者の畝山氏は、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部
第三室長という、添加物の安全性を検証する組織に属しています。
なので、本の内容としては、添加物の安全性を中心としたものです。
しかし、食品あっての添加物なので、食品の安全についても、大変参考になる
ことが書いてあります。
以下の申し上げることは、本からの引用ではなく、私の考えも付け加えてある
ので、誤解を招きましたら、私の責任ですので、ご容赦ください。
私が、これらの本を読んで、「食の安全」について改めて思ったことは、
天然のものをそのまま食べることは、危険である。ということです。
身近な例から行くと、魚の場合、天然のサバや鮭は寄生虫が居ます。
最近、回転ずしの人気ナンバーワンのネタは、サーモンとのことですが、
これは生食の場合、100%養殖ものです。養殖だと寄生虫は、いません。
また、魚の種類によっては、その脂質が下痢を引き起こしたり、フグなどは、
内臓の部位によって、食べると死に至る魚も存在します。
肉について考えても、腐敗による食中毒やアレルゲンは当たり前な危険ですし
天然の肉を手に入れようとしたら、野生の動物を狩猟にて捕獲する必要があり
反撃によってケガをしたり、それ以上の被害を被ることになります。
植物については、毒草は数限りなくあります。例えば、食べ慣れたジャガ芋に
しても、芽の部分は猛毒ですし、イモが緑色に変色した部分は、食べると体に
害があります。
キノコに至っては、どれだけの食中毒者を出して来たかは、計り知れません。
私どもが原料に使っている大豆も、生で食べると大豆のタンパク質のトリプシ
ンインヒビターによって、腹痛や下痢に見舞われます。
全体的なリスクとしては、肉と重複しますが、病原性微生物の繁殖による
食中毒があります。腐ったものを食べて、病気になることです。
このような劣悪な環境に晒されていても、我々には免疫力や治癒力がある為に
多少の危険なものを食べても、持ちこたえられる事ができ、平べったい表現を
すれば、簡単に人は死なない。ということです。
自然にあるものは、そのままでは安全なのか危険なのかわからないものばかり
であるということです。
(白(安全)でも、黒(有害)でもないグレーゾーンのものばかり)
以上のことを前提として考えると、「食の安全」とは、人の手を掛けることに
よって、天然に存在する危険を取捨選択し、加工して危険を取り除くことだと
思います。
今号はこれまでとさせていただきますが、次号では、折角、添加物の専門家の
著作を読んだので、関係するお話を申し上げたいと思っております。
★第67回 食の安全とは その2 ★
関東では、早くも桜の散り始めるところも多く見られてきました。
ここ数日はとても暖かく、お出掛けにも気持ちの良い季節です。
新年度を迎えお忙しい頃とは思いますが、体調には気をつけてお過ごし下さい。
今回は、『食の安全とは その2』をお届けします。
前号では、安全な食物は人が手を掛けて、天然に存在する危険を取捨選択し、
加工して危険を取り除くことによって、成立する。と言う考え方を申し上げ
ました。
なにか唐突に、その考えを申し上げたように感じますので、フォローをしたい
と思います。
まず、天然のなすがままのものは、安全なものと危険なものが混在していて、
しかも危険なものを黒、安全なものを白とすると、ほとんどが灰色で、その
灰色も様々な濃淡のある灰色であることは、ご理解いただけたと思います。
灰色の薄いのは、たくさん食べると具合が悪くなるものですし、黒に近い
灰色は食べた人のほとんどは死ぬが、生き延びる人もいると言う危険度の高い
ものです。
アレルギーに関しては、ある人に取っては、白ですし、真っ黒の人もいます。
そこで、そのまだら模様の灰色を白くするのは、加工であると言うことです。
魚を焼くのも、バナナの皮をむくのも、大きな括りでの加工です。
加工すれば、猛毒であるフグの肝から毒を抜くこともできます。
(塩漬けにして、ぬか漬けにするそうです。)
フグの例は、極端な例ですが、天然のものより安全性を上げることが、加工の
目的の一つであることは、間違いありません。
落語の「目黒のサンマ」のように安全を追求するあまり、必要以上に加工が
行われていることも、あり得ると思います。
しかし、必要以上に加工をすることは、素材の風味を損なうことと手間が
かかるために行いたくないのが、作り手としての本音でしょう。
しかし、法律等で定められている場合は、それに従うのは当然のことです。
牡蠣の生食用は、加熱調理用に比べて、加工度合いが高くなっています。
また、牡蠣の生育していた場所の海水の汚染度によって、生食用と加熱調理用
とに分けられているようです。豆知識の御披露はこのくらいにします。
加工の目的が安全性を上げていくことだとすると、食品添加物は、危険性を
減らしていくための手段の選択肢の一つである。とも言えると思います。
例えば、保存料とされるものに関しては、考えてみると、食品の可食期間が
長くなるのは、良いことだらけです。
長期間に渡って計画的に消費が出来ること。それにより、廃棄ロスが少なく
なること。が、大きな視点でのメリットです。
なにより、食中毒で体調を崩す、もしくは、死に至る。その確率が著しく
減ることは、大きなメリットです。
ただ、腐敗菌が死滅するのだから、人体にも悪い影響があるに違いないと
思ったり、その保存料自体を摂取することによって、別の危険が体に及ぶ
のではないかと言う、余計な心配があります。
(この件については、後で説明を致しますので、ここは流してください。)
その安全性を評価するのが、前号でご紹介した畝山氏の仕事です。
本の内容も自らの仕事である添加物関係の話と大変潔いことだと思います。
公的な仕事でその内容について、本を書くとは、逃げ道がないのですから、
そこら辺の料理研究家が添加物について書くのとは、責任の重みが違います。
畝山氏の本では、食品の危険性については、ハザードではなく、リスクを
評価しなければならないという基本の基本を学びました。
ざっくりと説明すると、ハザードとは、その食品が持っている危険性の数値
です。リスクとは、ハザードに暴露量(別の言い方で摂取量)を掛けたもの
です。
危険性が高い物でも、少ない量しか食べなければ(体に取り入れなければ)
リスクは少ない。危険性が低い物でも、たくさん食べるとリスクは多い。
という話です。
新聞記事でも、「規格値の何倍を超える~」という表記で出ますが、それが
ハザードでの評価です。
しかし、それを少ししか食べなければ、リスクは少ない。ということです。
全くもって、理にかなっています。
また、添加物の検査方法については、詳細にわかりやすく書いてあります。
私なりに解釈したイメージを申し上げると、ラットやマウスで一番敏感な
種類が具合の悪くなる量を100分の1にした量が、基準値です。
この数字は、あくまでも、私のざっくりとした解釈もしくは感想ですので、
このことに関しては、著者は専門家なので、丁寧にわかりやすく説明が
あります。
私なりの偏見も交えて、畝山氏の本をご紹介しましたが、私なりの感想を
申し上げると、「専門家が専門分野について、正面から書いた本」だと、
思います。
次号は、「味噌の無添加」について、私なりの考えを申し上げます。
★第68回 味噌の無添加表示について ★
ゴールデンウィーク前半は、とても良いお天気に恵まれました。
今晩からは雨の予報も出ておりますが、週の後半は また高気圧に覆われ
晴れてお出掛け日和となる見込みの様です。
高温の日も増えてきました。暑さ対策を万全に連休を満喫したいと思います。
今回は、「味噌の無添加表示について」をお届けします。
まず、最初に哲学じみた屁理屈を申し上げます。
何をもって「無添加」と言えるか。について、申し上げます。
少し見方を変えてみると、なにも入っていないことを主張することは、
なかなか難しいことです。
さらに、それが商品としての主張になることは、なにか不思議な感じがします。
味噌の無添加について表示する(以下、無添加表示)には、もちろん、
規格があります。
「みその表示に関する公正競争規約」に味噌の無添加に関する規格があります。
成り立ちとしては、味噌の業界団体(全国味噌業公正取引協議会)が自主的に
景品表示に関する事項を設定して、公正取引委員会の認定を受けた規約です。
その規約の第7条(不当表示の禁止)の(6)に以下のようにあります。
大豆、穀類(米、大麦、はだか麦等)、食塩、種麹菌及び発酵菌以外の
原材料又はキャリーオーバー若しくは加工助剤を使用したものについて、
「無添加」の表示
前半部の原材料についての規格は、「種麹菌及び発酵菌以外」と言うところに
解説を加えます。種麹菌は、麹菌のことです。米味噌の場合は、蒸かした米に
種麹菌を振りかけて、増殖させ米麹となります。
また、乳酸菌や酵母等の発酵菌を味噌の仕込みの際に添加することがあります。
種味噌を仕込みの際に混ぜ込んで、良い微生物を増殖させることと同じ目的です。
後半部は、キャリーオーバーと加工助剤という聞き慣れない言葉が出てきます。
まず、キャリーオーバーですが、宝くじ関係で耳にするかもしれませんが、
厚生労働省の定義によると、
(定義)原材料の加工の際に使用されるが、次にその原材料を用いて製造される
食品には使用されず、その食品中には原材料から持ち越された添加物が効果を
発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの。
加工助剤も、同じように定義を拾うと、
(定義)食品の加工の際に使用されるが、
(1)完成前に除去されるもの、
(2)その食品に通常含まれる成分に変えられ、その量を明らかに増加されるもの
ではないもの、
(3)食品に含まれる量が少なく、その成分による影響を食品に及ぼさないもの。
具体的に申し上げると、種麹菌を蒸米に種付けをするのに、種麹1gを200倍から
5,000倍の量の米に使用します。
その為に種麹を均一に蒸米に種付けするために、希釈増量する必要があります。
それを弊社では、30年前は、カルシウム粉末で増量をしていました。
現在は、水で増量して良く撹拌して、噴霧する方法を取っています。
また、種麹菌を米粉で希釈増量した種麹もあるようです。
さらに、豆味噌では、香煎(こうせん)と言って、大麦の粉末を煎ったもので
増量して使用している蔵もあるようです。
定義の基づき、白黒をつけると、米味噌の場合、麹菌の希釈増量剤として
水と米粉は、OKですが、カルシウム粉末は、アウト。
豆味噌の場合は、水はOKで、米粉と香煎は、アウトとなります。
しかし、無添加表示でメインとなる話題は、アルコールが添加されていない
ということです。
厚生労働省によると、食品添加物には、以下の分類があります。
「日本で使用が認められている食品添加物には指定添加物、既存添加物、
天然香料、一般飲食物添加物があります。」
アルコールは、一般飲食物添加物に分類されます。
その説明は、「一般に飲食に供されているもので添加物として使用されるもの
です。(イチゴジュース、寒天など)」とあります。
(この文章では、アルコールに呼び名を統一しますが、酒精、エタノールも
呼び方が違うだけで全く同じ物質です。)
少し横道に逸れますが、味噌の場合、食塩は、添加物ではなく原材料です。
アルコールを味噌に添加する効果を始め、アルコールを添加しない無添加味噌
との比較については、次号、申し上げます。
★第69回 無添加味噌について ★
今週、梅雨前線は5日から6日にかけて北上し、広い範囲で雨になり
このタイミングで中国から関東甲信まで梅雨入りの可能性があるそうです。
10日以降は、天気大荒れの予報も出ていますので、早めの備えが必要です。
今回は、「無添加味噌について」をお届けします。
前号では、無添加味噌の規格について申し上げ、アルコールの添加の有無が、
無添加味噌のメインの話題だとしたところでした。
今号では、まず、アルコール添加の目的についてから申し上げます。
アルコール添加の目的は、防涌です。防涌というあまり目にしない熟語ですが、
味噌が再発酵しないために添加することです。ご存知のように、味噌の発酵の
最終段階は、酵母の増殖が味噌の味や香りを左右することになります。
酵母菌の菌数は、10の8乗個(1gあたり1億個)以上となります。そこまで、
増殖した酵母が、減少して10の4乗(1万個)以下のレベルまでになります。
味噌の発酵熟成については、色々意見がありますが、酵母が増殖している段階を
発酵、減少している段階を熟成とする説もあります。
発酵熟成が完了した味噌でも、何かの刺激を受けると再発酵が始まります。
その刺激とは、味噌漉し機を通るとか、撹拌されて酸素が供給されるという様な
刺激です。充填機で袋やカップに充填されることも、含まれます。
再発酵が始まるとどうなるかと申しますと、酵母の活動による呼吸で炭酸ガスが
発生します。それによって味噌の入っていた袋やカップに内側から圧力がかかり
パンパンに膨れます。商品としては、売れません。(全く無害です。)
そのような事の無いように、味噌を熟成桶から掘りだした工程で、アルコールを
添加します。そこから、漉しの工程や充填の工程に向かいます。
無添加表示との工程上の違いは、アルコールを添加することです。
また、漉し機を通さずに粒味噌として、充填されることです。
これは弊社のデータを元に申し上げますが、無添加の味噌を漉すと、必ず漉した
直後から、再発酵が始まります。そして、漉し味噌ですので、ガス抜きの容器に
充填しても味噌全体が膨らみ、ガス抜きの穴は、一つなので、ガスが抜けること
なく、容器ごと膨らみます。
粒味噌の場合は大豆や麹が粒なので、その隙間をうまくガスが抜けて行きますが
カップの中が地層のように味噌、空気、味噌、空気のような見た目になります。
アルコールを添加すると、酵母の活動がおとなしくなります。
別の言い方をすると、味噌の発酵が安定します。
また、アルコールを添加物として使うことは、添加物の分類的に以前に申し上げ
たように一般飲食物添加物であり、「一般に飲食に供されているもので添加物と
して使用されるもの」であり、薬品系の添加物と違って使用量に制限があるもの
では、ありません。
(あまり入れすぎて10%近くも入れると、酒税法の問題が出てくるかもしれま
せんが、その前に、味噌がものすごく緩くなります。)
さらに、アルコールの沸点は、80℃程度で、普通の味噌汁を作る時のポイントの
「味噌を入れて、ひと煮立ちしたら、火を止める。」を行えば、味噌汁の中には
アルコールは存在しません。
なお、アルコールは、味噌の発酵過程で少量ですが、発生します。それは酵母の
働きのひとつだからです。
酵母の再発酵を全くさせない方法は、一つしかありません。
それは、味噌の発酵に関わる微生物を加熱殺菌することです。アルコールを添加
することは、厳密言うと酵母の増殖を弱めるだけで、殺菌ではありません。
ところで、味噌の加熱に関する表示には、「生」と「天然醸造」が規定されています。
「生」は、「加熱殺菌していない味噌には、『生』と表示できる。」とあります。
「天然醸造」は、二つ条件があります。
一つ目は、食品衛生法施行規則別表第一に収載された添加物を使用しない。
これは、検索いただくとわかりますが、指定添加物と呼ばれる、ざっくり言うと
薬系の添加物です。味噌の場合は、調味料がこれに当たります。
だし入り味噌には、天然醸造の表示は出来ません。
二つ目は、加温により醸造を促進しない。
「生」では、加熱、「天然醸造」では、加温です。
なぜ言葉が違うかと言えば、加熱は殺菌のためで、加温は酵素反応の活性化と
微生物の増殖のためで、180度目的が違います。
ここで、加熱殺菌に戻りますが、規格上、無添加表示の条件には、加熱殺菌は
関係ないので、その他の条件を満たしていれば、無添加表示は、可能です。
もちろん、「生」は、表示できません。
加熱殺菌してある無添加表示の味噌には、容器にガス抜きの穴が開いていません。
また、漉し味噌で充填している味噌の大部分が、加熱殺菌の味噌です。
今号は、この位にして、次号では無添加表示への私なりの考えを申し上げます。
★第70回 無添加味噌について その3 ★
関東では先々週、平年より22日早い梅雨明けとなり、厳しい暑さになりました。
夏バテや病気回復等に効果のある、お味噌汁を飲んで、この暑さに負けず
夏を乗り切りたいと思います。
今回は、「無添加味噌について その3」をお届けします。
前号では、加熱殺菌しても、無添加表示が可能というお話をしました。
今号では、無添加表示への私なりの考えを申し上げます。
私が、無添加表示で一番気になっているところは、「無添加」という耳触りの
良い言葉が、一人歩きしているように思います。
現実の問題としては、キャリーオーバーや加工助剤の問題をクリアすれば、
(ちょっとした品質管理方法で、可能です。)無添加表示の味噌と他の味噌の
違いは、アルコール(だけ)が添加されて居るか居ないかの違いです。
そのアルコールも、人類との付き合いは、とても長期間に及んでいます。
そのため、アルコールの人体に対する問題は、昨日今日開発された薬品とは
違い、全てが明らかになっているはずです。
アルコールでしたら、使用量によって、人体に悪影響はありません。
漉し味噌の場合は、無添加表示の味噌は、前号でも申し上げましたが、
加熱殺菌済みの味噌がほとんどです。
繰り返しになりますが、味噌を加熱殺菌する目的は、酵素失活と微生物
(主に酵母)の殺菌です。これにより、味噌が酵素や微生物の活動により、
発酵熟成が進む(炭酸ガスの排出を防ぐ)ことになります。
酵素失活や殺菌のためには、70~80℃の加熱が必要と言われています。
まず、酵素は、ご存知のようにタンパク質で出来ています。タンパク質は、
熱によって変性します。肉を焼くと硬くなり、卵を茹でると固まるのと同じ
です。大豆のタンパク質は、もちろん、味噌に仕込む前に蒸煮するので、
本来の大豆タンパクではなく、変性しています。
しかし、タンパク質→ペプチド→アミノ酸の分解は、全てが同じ歩調を
取って分解される訳ではなく、それぞれの段階にあります。
また、デンプンも、酵素分解で最後はブドウ糖になりますが、それぞれの
段階にあります。
味噌の関係する酵素の失活温度は、60~70℃とされています。
酵素が失活することで、それ以降の酵素の活動による物質の生成は、行われ
なくなります。
また、みそに関係の深い乳酸菌や酵母も活動をして乳酸や高級アルコールを
生成します。乳酸菌は、35℃では生育しますが40℃では生育しません。
また、酵母は、35℃で生育が弱まり、40℃で死滅し始めます。
以上の温度を根拠として、70~80℃と言う温度が、味噌の加熱殺菌の目安と
されています。
そのように味噌を加熱すると、味噌がそれまでの発酵熟成過程で作り出して
来たものの一部を損なってしまうことは、間違いありません。
したがって、私は味噌を加熱して酵素失活などをするよりは、アルコールを
添加した方が、味噌の風味を守ることにつながると思います。
また、粒味噌では、加熱をせずにガス抜きのバルブを付けることによって、
無添加でのパッケージは、可能になります。
残念ながら、コストは、掛かります。パッケージは、専用のカップ(味噌が
膨らむのでヘッドスペースが必要なため)にしてバルブ付きのトップシールに
して、その上に専用の蓋を載せるようになります。
また、微生物の増殖を抑えることをしないために、常温で置いておくと、
無添加味噌は、発酵の進み方が早くなります。
そのため、流通過程で温度が高い場合には、発酵の進み方が早くなり、
意図していた品質を損なってしまう可能性があります。
幸いにして、弊社には、味噌桶ごと入る冷蔵庫があります。製品用の冷蔵庫も
あります。しかし、物流は、常温配送になります。それをあえてチルド配送に
して、小売店でも冷蔵保管をお願いすれば、品質を保って消費者の元に届ける
ことは、可能でしょう。
しかし、本来チルド流通は、低温で運ばないと傷む食品を運ぶ手段だと思います。
保存食品である味噌をチルド流通に載せることが、エコと言えるのでしょうか?
ただ、ご購入後、ご家庭では冷蔵庫もしくは冷凍庫に入れていただくのが、
無添加の味噌でなくても、良いと思います。
以上のことから、申し上げたいのは、粒味噌での無添加の流通は、可能です。
しかし、特殊な資材や流通を必要とするために、それが環境に優しいとは、
言いにくいです。
3回に渡り、長々と無添加味噌について、申し上げて参りました。
中には、全くこちらの事情を押し付けていることも、あるかもしれません。
しかし、手元にあるカードを全て見せている積りでおります。
無添加味噌に関するお話も、とりあえず、今回で一旦、幕を引かせていただき
ます。ご意見があれば、お寄せください。

